中学生の矯正

抜歯矯正・非抜歯矯正

ここでまた、矯正歯科治療における永久歯の抜歯に関する話題です。 キレイな歯ならびを手に入れる為に、永久歯の抜歯を行うことがあることがあり、これを「便宜抜歯」と言葉で歯学部教育ではなされています。 この抜歯の目的は、全ての歯をキレイに並べるだけの余地がない時に、実質的な害がより少なくその並ぶ余地を得る方法です。 以下に、私入江道文が歯チャンネルにて回答したものの抜粋(私入江が執筆した内容の引用)です。 矯正歯科臨床に携わる者にとって「抜歯」、「非抜歯」は古くからのテーマです。 歴史的に、不正咬合の分類で著名なDr.アングルが「非抜歯」論者とされ、またDr. ケースが「抜歯」論者であったように思います。Dr.ケースの教え子にDr.ツイードがいたような気がします。また、ケース先生達はかつてはアングル先生の教え子でもありました。 ある日本の矯正歯科の教授が、留学時代にケース先生に尋ねたことがあるそうです。 「ケース先生は抜歯しないと矯正治療はうまくいかないとおっしゃってますが、どのくらいの頻度で抜歯をするのですか?」 これに対する答は、 「7パーセントです。」 抜歯推奨派の先生が7%です。 一方で、非抜歯派のアングル先生、ご自身の奥方様の矯正治療を抜歯して行ったことは有名な話です。 このアングル先生、矯正歯科臨床を担当する歯科医師のみならず、歯科医師国家試験で「アングルの不正咬合分類」が出ないことはないくらいに世界で定着した矯正臨床の分類を作った先生としても、歯科業界で知らない人はいないでしょう。 ご参考までに情報として、どちらかというと「非抜歯派?」の当院で10年近く前にランダム100症例のブラケット治療が完了した方々の抜歯率は7%でした。ケース先生のいうところの、「抜歯派」の数字と偶然に一致しています(汗!+ 笑!) 「当院では・・・」と表現は掲示板上では不適切なのでしょうが、ご質問の趣旨を踏まえ、理解の一助としてあえて記述しました。 日本で「抜歯矯正」・「非抜歯矯正」という言葉が、何だか独り歩きしていないといいけどな!と思う卒後30年以上、矯正歯科畑を歩いてきた一歯科医師の独り言です。 「抜歯」、「非抜歯」の治療方針は、歯のサイズとそこの土台となる骨のスペースの不調和をどのように解決するかのオプションのひとつに過ぎないと言う事もできると思います。歯列模型で全く同じ歯列であっても、セファロ画像やCT画像により、歯根周囲の骨の状況により「抜歯」、「非抜歯」の方針が分かれることもしばしば経験するところです。 矯正歯科治療は、ある種外科手術に似ていると思います。 一度、治療を開始すると、少なくとも元には戻れません。抜歯をすればなおさらのことです。これを終わらせる為に、どの担当医も知識・経験の限りを尽くしていると思います。 外科的治療が決まり、手術を受ける方が、 「止血はバイポーラ(注:電気メスの一種)を使わないで下さい。」 「メスは、○○社の物を使用してください。」 「縫合は、オートスーチャー(注:自動縫合機)を使うんですか?」 的な、各論の話を持ち出しても執刀医、患者様双方の利益にはなり難い感じがします。 治療方針のひとつである、「抜歯」・「非抜歯」をどちらが正しいか、どちらが「アリ」か、掲示板上で答えることは難しいように思います。 >矯正歯科のみなさんからすると、非抜歯のクリニックはどのように考えられていますか? 大変恐縮ですが、上の記述よりご賢察下さいませ。 >また、八重歯が一本なくとも、本当に矯正できるのでしょうか。 先天的に犬歯のない方もいらっしゃいます。その方の治療も、矯正歯科医であれば、抜歯または非抜歯を含めた治療方針を示すことができると思います。 以上が、私の回答の抜粋です(私が記述したものを歯チャンネルより引用しました)。 抜歯・非抜歯は、患者様の症状と担当医のスキルの問題として議論してもなかなか統一見解は得にくいと思います。 ここで矯正歯科診療を行っている歯科医師の先生方にもぜひ、考えて頂きたいのですが、医学的理由で抜歯ができない場合です。 プログラフなどの免疫抑制剤を服用中(骨髄移植を含む臓器移植の既往歴など)のかた、先天性の心疾患をお持ちの方など可能な限り矯正歯科の便宜抜歯を避けたい方の場合、医学的に非抜歯矯正を可能な限り選択しなければなりません。 「非抜歯の矯正は、口元が出てしまうから無理です!」 とおっしゃる歯科の先生には、このような患者様に「矯正治療そのものが無理」と説明されているのか意見交換がしてみたいものです。 因みに、入江クリニックではこのような症状の方現在のところ全例、お受けしています。 相変わらず、理屈っぽくなってしまいました。わかり難い文書ご容赦くださいませ。

矯正歯科治療の料金ー安い?高い?

今日はある意味タブー的な矯正の診療報酬について、触れてみたいと思います。
「矯正に保険はきかないのですか?」というご質問も受けることがあります。
少しお堅い話にお付き合いください。
健康保険法の中の療養担当規則第21条では、下記のように決められています。
(歯科診療の具体的方針)
第二十一条  歯科医師である保険医の診療の具体的方針は、第十二条から第十九条の三までの規定によるほか、次に掲げるところによるものとする。

 診察
・・・中略・・・
 歯科矯正 歯科矯正は、療養の給付の対象として行つてはならない。ただし、別に厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない。
つまり、通常の矯正歯科治療では、法律として健康保険の適用ができないことになっています。
時折、「こどもの矯正を保険でやってくれた」という話を小耳にはさみますが、法律上あり得ない話です。
他の歯科治療のように、保険適用と自由診療による治療が選択できるのとは全く異なります。矯正歯科医が意図的に自由診療に誘導しているのではありません。
時として、保険で治療をやってくれる先生は良心的な先生で、自費診療の先生は金儲け主義だという論調の書き込みを見かけますが、矯正歯科診療においては全く当てはまりません。
厚生労働大臣が指定する疾患が元で、矯正歯科治療を必要とする場合は保険適用になります。私も開業する前は担当していましたが、その地域のセンター的な施設(大学病院・開業医をもちろん含みます)で担当するのが、個人的には望ましいと考えます。
「安い矯正」、「矯正歯科の適正料金・適正価格」、「矯正歯科・安い」などの検索ワードが多く見られるようですが、何をして安いというかでしょうか。
健康保険の基準でいくと、ざっくりと100万円程が診療報酬となります。保険の基準をそのまま適用しても、10割負担となると100万円、自由診療ですからそれに消費税がかかります。ここがひとつの出発点になると思います。
一度に100万円かかる訳ではありませんので、誤解のないようにお願いします。
ちなみに入江クリニックでは、5歳の方の場合5万円+消費税で治療開始ができます。
国立大学歯学部附属病院矯正歯科の料金と大学病院矯正歯科の医療技術がひとつの基準として考えてよいかもしれません。
矯正歯科医同士がはじめまして・・・と挨拶を交わす時に、「先生はどこでトレーニングされましたか?」と会話がよく出てきます。決して出身大学を聞くわけではありません。歯学部卒業の時点では、全く何もできませんので、その後上級医の指導・監督の下、矯正歯科治療の研鑽を積むことになります。一定のトレーニングを経ないと矯正歯科診療はできません。
いくら医師免許を所持していても、トレーニングを受けなければ、全てのドクターが心臓移植ができないのと同じです。
うまく表現できませんでしたが、矯正歯科の料金にまつわる話でした。

矯正歯科治療とむし歯 その4

歯医者さんから、「矯正をするとむし歯になるから、やらないほうが良いと言われました。」 という話を、時々聞きます。こうおっしゃった歯医者さんはもちろん何等かの思いがあってのことでしょうから、言い合いはしたくありません。

私ども入江クリニックでは、可撤式装置を多用することもあるのでしょうが、感覚的にはむし歯になる方は非常に少ないように思います。ブラケットを装着した状態で、ご懐妊、ご出産された方々でむし歯になった方は記憶にありません。

妊娠中は、ブラケットがなくてもむし歯のリスクは高まるといわれていますが・・・、ブラケット装着のままでも問題となった経験がありません。

とはいうものの、矯正治療中の特に10代の方は、時々1ヶ月の間にむし歯が急速に拡がってしまうことを経験することがあります。

ある時期から、急に歯が全体的に白っぽくなる・・・、つまり脱灰(だっかい)歯のカルシウム貯金が「風前の灯」状態が見られるようになります。

ここで、エナメル質にさらなる刺激が加わると大げさな表現ですが、「爆発的に」むし歯が拡がることがあります。また悩ましいことですが、このような状態の方はなぜか同じ会話内容になります。

○「1日3回きちんと歯みがきは欠かしていないのですが」

○おうちの方が、「ちゃんと歯みがきするように言っているのですが・・・。」

どこか、他人事です。 いくら歯みがきをしても、むし歯になります!(決して、歯みがきを否定しているわけではありません) むし歯抵抗性を超える環境がお口の中で続くと、むし歯になります。 いくら歯みがきをしても、「歯のカルシウム貯金残高」が減る環境が反復・持続するとむし歯になる可能性が極めて高くなります。

  • ○糖分の入ったペットボトル飲料を、ちびちび飲み していませんか
  • ○500ml紙パック入りコーヒー牛乳をストローを使って飲んでしませんか(一緒にパンをを食べるとむし歯のリスクMaxです)
  • ○疲れて帰宅し、寝落ちすることがありませんか
  • ○酢の物・マリネ・南蛮漬けなど、すっぱいものを良く食べませんか
  • ○部活等をがんばって、スポーツドリンクを飲みながら日々練習していませんか

*具体的に、コーラ、キレートレモンなどはpHが低い(酸性度が高い)という意味では、むし歯抵抗性を低下させるものといえます。私も好きですが・・・。

これら(pH5.5以下の環境が長い)に心当たりのある方は、むし歯になるリスクが非常に高いと思ってください。中学生・高校生の時期にこの習慣が少しでも続くと「あっ!」というまに、むし歯が進行することがあります。

そして「歯医者」さんに行くと、「何でこんなになるまで放置しておいたのだ!」と強い口調で患者様は言われる訳でして・・・、結果矯正の先生がわからずに放置していた?と思われてしまうケースも残念ながらあります。

徴候が見られる時に、必ず私どもクリニック側で「もう少しお手入れにお気遣いくださいませ」とお伝えして、歯ブラシの当て方の確認やエアフローという歯面清掃装置を使用してきれいな状態を認識して頂くようにしています。 このエアフローできれいにした際に、歯肉から結構出血(歯肉炎ー全く痛くはありません)することが多く、少し大変な状態であることをお伝えするようにしています。

それでも、なかなか改善が見られない方も残念ながら少数派ですがいらっしゃいます。このような意味では、生活習慣病の側面も否定できないと思います。

矯正歯科治療とむし歯 その2

前項で、むし歯の成り立ちについてお話をしました。

もう少しお話を続けます。歯のカルシウム貯金のお話をしましたが、歯が生えた直後のカルシウム貯金は非常に少ない状態です。これが、唾液中のカルシウム等を取り込んで次第にカルシウム貯金残高が大きくなり、「むし歯に対する抵抗性」が増します。抵抗性が増すのであって、「むし歯にならない」訳ではないので念のため。

「むし歯に対する抵抗性」というキーワードではもうひとつ、フッ化ナトリウムなどのフッ化物の存在が重要です。

歯のエナメル質は、化学的には水溶性です。周囲の環境が良いとカルシウムを取り込み、環境が悪いとカルシウムを放出します。

前にお話した、「水酸基」が「フッ素イオン」と置き換わることにより、水溶性から不溶性に変化して、エナメル質結晶の安定度が増します。

むし歯を作らないためには、「むし歯抵抗性」を上げる方法を患者様と医療者側の二人三脚で実践することです。

次回は、「むし歯抵抗性」の向上を目指してお話したいと思います。