歯とその周囲の骨との関係は、「関節」です。
歯科医療従事者の方でも忘れがちなことですが、歯は周囲の骨と歯は「歯周じん帯」で結ばれています。
そして、この支持が外的要因で急激に失われることを「脱臼」ということからもわかります。
歯周じん帯を介して歯根と骨との空隙(距離)を一定に保とうとする性質があります。この性質のおかげで、歯科矯正治療が可能となります。目標とする移動方向へ向けて、適度な矯正力を加えると、歯の移動に対応して骨の改造反応が起きます。もう少し詳しくいえば、骨の吸収(破骨細胞が関与)と添加(造骨細胞が関与)を繰り返すことにより、矯正治療が進んでいくことになります。逆に、この破骨細胞と造骨細胞の働きのバランスが崩れる病気の代表例が骨そしょう症です。
以上のメカニズムを利用して、歯根の位置を含めて自身の歯を適正な位置に移動させることにより、機能的にも審美的にもよりよい歯列、かみ合わせの状態を長期的に維持することを目的とした治療です。
歯の表面や歯冠を人工の修復物に置き換える、いわゆる審美歯科治療とは通常区別される診療分野です。
矯正歯科治療には、いくつかのリスクや留意点が存在します。
固定式装置の場合、歯磨きの難易度が上がることによるむし歯・歯周疾患発生率の上昇
- 当院の考えと対応
残念ながら、矯正治療に関係なく原因微生物が特定された感染症である、むし歯・歯周疾患等のリスクをゼロに近づける努力はできても、ゼロにすることは現在の知見では難しいと思います。適切なブラッシング方法の説明、適切な歯磨剤等の推奨、機械的歯面清掃(歯面粉体清掃)、フッ化ナトリウムなどのフッ化物の定期的な適用によるむし歯予防など、患者様、養育者様のご協力のもと可能な予防処置を行っています。ご家庭でのセルフケアに十分なご協力が得られない場合あるいは、定期的な受診をして頂けない場合など、一時的に固定式矯正装置の使用を中止せざるを得ないこともあります。なお院長は、「歯科予防処置」の教鞭を執っていた経験がありますので、お気軽にご相談いただけたらと思います。患者様の個性に寄り添い、通り一遍の「ブラッシング指導」にならないようにスタッフ一同心がけています。
矯正中の痛み
- 当院の考えと対応
矯正治療中、特に固定式矯正装置であるマルチブラケットシステムの調整後3日程(まれに1週間)、「歯が痛い」と表現される方がいらっしゃいます。英語を母国語とされる患者様は、「Pain」という言葉ではなく「Sensitive」という言葉を使われます。けがやむし歯の痛みとは少々異なる種類のものです。原因として考えられるのは、歯が動くメカニズムとして歯根周囲に“プロスタグランジン”という物質の濃度が高まります。この濃度が高くなってきた現象を、「痛い」もしくは「Sensitive-敏感になっている」と表現されることが多いように思います。従いまして、一般的な消炎鎮痛薬 NSAIDs の多くは体内でのプロスタグランジン生成を抑える作用機序のものが多く、この「痛い」という訴えに対して著効であることが多いものの、理論上は矯正治療上の歯の移動に対しても抑制的に働く可能性が示唆されています。
歯根吸収
矯正歯科治療において、歯根吸収のリスクは必ず存在します。原因としてクリアな知見を私は知りませんが、上記のプロスタグランジンも関与している様に想像しています。通常は、「生理的歯根吸収」と呼ばれるものであることが多く、歯の機能に対する影響は限定的であることが多いと考えます。外国では、矯正歯科治療における歯根吸収は医療事故等ではないとの認識が一般的なように思います。ただX線写真上では、歯根の先端の形が変化している症例の経験はありますが、機能的に問題になった事例は記憶にありません。
後戻り(Relapse)の可能性
学問としての歯科矯正学、診療科としての矯正歯科。英語では、Orthodontics と Orthodontia ふたつの言葉があります。この領域で永遠のテーマともいうべきものが、後戻り(Relapse)です。原因として、歯周じん帯の走行、歯の隣接面などの形態などが考えられますが、一番大きな原因はお口の周りの筋肉の動きであると考えます。例えば、舌が後方からタッチしているだけで、矯正歯科治療の何倍もの力が歯に作用している可能性があります。この筋肉の動きを是正しないと、歯列は不安定なままとなる可能性も否定できません。
- 当院の考えと対応
いまだに学会での論争?にすら発展する「後戻り問題」。当院では、認知行動療法を含むMFT(Myo Functional Therapy )筋機能訓練や筋機能・習癖改善を目指したマウスピースの適用で対応しています。